不動産を相続したものの、自分はもちろん、親族の誰も住む予定がない。その時の判断としては売るか、貸すかが主なもの。ここでは「では、売ろう」となった時に知っておきたいこと、できることをまとめてみた。
その土地にそもそも市場が存在しているかを調べる
都市に住んでいると不動産市場が存在しているのは当たり前と思うかもしれないが、地方に行くとそもそも市場がないことがあり得る。不動産会社もなければ、ほとんど取引が成立していない場合があるのだ。
それを知るためには不動産ポータルでその地域の不動産を検索してみるのがてっとり早い。県、市町村と順に検索していけばどこに、いくらの物件が出ているかが分かる。
ちなみに私の父方の実家は福島県大沼郡金山町だが、どのポータルサイトで見ても物件掲載はなく、こうしたところで不動産を相続した場合には市場で売却するのは難しいことがこの時点で理解できる。
また、物件掲載があったとしても1戸、2戸などという地域ではコンスタントに供給があるわけではない例も。一度チェックしておしまいではなく、ある程度継続的に見続けると本当に市場があるのかはもちろん、相場も分かるようになってくる。
もうひとつ、同じ市町村内でも高値で取引されている地域、数百万円以下でしか取引されていない地域があり、そのあたりも要チェック。不動産ポータルではよく市町村の平均価格を出しているが、ひとつの自治体の中で価格差が大きい場合には目安にならない。自分が所有している、あるいは相続する建物がある地域の状況を冷静にチェックしたい。
ポータルがダメでも国交省サイトで検索できることも
民間の不動産ポータルサイト以外では国土交通省の不動産取引価格情報検索も参考になる。これは国交省が不動産の購入者に対して行っている購入した物件の価格等についてのアンケート調査の結果を掲出したもの。
ポータルサイトに物件情報が掲載されていない地域でも実際の取引があれば掲載されているので、より広い地域での取引状況が分かる。また、ポータルサイトに掲載されているのは売りたい価格だが、こちらは実際に売買された価格。よりリアルな数字といえる。
対象となる物件は宅地(土地、土地と建物)、中古マンションなどと農地、林地。農地、林地に関しては民間サイトでは見られないものなので、もし、所有している不動産の近隣で取引があれば参考になる。
だが、ここにも無ければ市場はない、相場が形成されていない可能性が高い。
地域によって売り方にも差が出る
続いては売り方である。ここまでお読みいただいたことでお分かりいただけると思うが、市場があり、相場が形成されていれば市場で売ることができる。だが、それがない場合には違う手を考えなくてはいけない。以下、売り方を市場の状況も含めて見ていこう。
◎空き家バンクを利用する
市場、相場がない地域で売ることを考えた場合にとりあえず当たってみたいのが地元自治体の空き家バンク。自治体のホームページから、あるいは国交省の空き家・空き地バンク総合情報ぺージにある全国地方公共団体空き家・空き地情報サイトリンク集から検索するのが効率的だ。
2018年に全国版空き家バンクが誕生して以降、自治体の空き家バンクの流動性も高くはなっているが、自治体によってはあまり動いていないところもある。登録時にはどの程度売れているのかを聞いてみることも大事だろう。
地域によっては「変な人に入ってきてほしくない」という理由からあえて高値を付けているところもあり、そうなると空き家バンクを見ての値付けでは売れない可能性もある。市場、相場の形成されていない地域では特にあまり欲張らない、売れていない状況が分かったらきちんと値下げすることも大事だろう。
◎不動産会社を利用する
不動産会社に売却を依頼する場合には相手がどんな不動産会社なのかをよくよく見極めて依頼する必要がある。多くの人の目には不動産会社は同じように見えているかもしれないが、医者に外科や皮膚科、内科があるように、実は不動産会社にも得手不得手がある。駅前の不動産会社、知っている不動産会社にに頼めば大丈夫というわけではないのだ。
市場が形成されている、過去に取引があった場所であればその取引をした不動産会社に当たるのが一番現実的だろう。
◎住宅買取、再販会社を利用する
不動産会社経由で購入者に引き渡すだけでなく、自ら住宅を買い取って再販している不動産会社に売るという手もある。このやり方なら依頼後に売れるかどうかやきもきする必要がなく、確実に売れる。もちろん、ニーズのある地域、ない地域があるため、どこでもどんな家でも売れるというわけではないが、聞いてみる価値はある。
一戸建ての買取再販では全国で展開しているカチタスという会社が知られているが、積水ハウス、大和ハウス工業、旭化成ホームズ、パナソニックホームズ、積水ハウスなどといったハウスメーカーも自社物件の買取を行っている。都市近郊ではこうしたメーカーで建てた物件も多いだろう、まずは建てた会社に当たってみてはどうだろう。
◎瑕疵物件専門の不動産会社を利用する
物件にあまり公にしたくない瑕疵がある場合には事故物件、買取で検索してみると、びっくりするくらい多くの不動産会社が出てくる。この数年で一気に増加しており、ランキングすらできているほど。物件がある地域を扱っているかどうかに加え、信用できる会社かどうかをホームページからじっくりチェック、その上で相談してみたい。
他の手段で不動産会社を選ぶ時も同じだが、必ず、候補となる会社の比較検討はしてみること。急いでなんとかしたいという気持ちの時には検索で最初に出てきた会社につい頼りたくなるが、トップに出て来るから良い会社という保証はない。スタッフのブログなども含め、よく読んでみると会社の方針などが透けて見えてくるはずだ。
◎更地して売るために解体業者を利用する
建物を解体、更地にして売却という手もある。また、解体はしないものの、購入者が後日解体するのでその分を差し引いて売ってくれということもある。それを考えると解体費用はおおよそでも知っておくのは役に立つ。
そのために利用したいのが解体工事の無料一括見積サービス「crassone」。もちろん、解体事業者に知り合いがいれば、そこで聞けば良いが、そうでない場合には使ってみたい。国交省のモデル事業に選ばれたり、各地の自治体と連携をするなどもしており、提携する事業者も数多いようである。
◎自分で売るために掲示板を利用する
自分で不動産を買いたい人を探すというやり方もある。そのひとつの方法が家いちばという掲示板サイトの利用。このサイトについてはメディアその他でもしばしば紹介されているのでご存じの方も多いだろう。
どんな場所でも、片付いていなくても、雨漏りしていても、農地や山林があっても自由に、一切無料で掲載できるとなっており、問題のある物件をなんとかしたいという場合には救いの一手になるかもしれない。
ただし、掲載依頼はもちろん、原稿作成、物件の撮影、現地の案内など自分でやることは多く、それが面倒という人には向かない。一方で空き家になっているとはいえ大事な家であり、誰でもいいではなく、家を大事にしてくれる人に譲りたいという人にとっては相手を選べるところもあり、向いていると思う。
契約に関しては宅建士が作成してくれ、購入希望者とのやりとりは個人情報を出さずにできることもポイントだ。
◎近所、地域の人に売る
同じく自分で買いたい人を探すと言うやり方のもうひとつはご近所の人に当たってみるという手。特に田舎ではご近所さんが隣の土地を買ってくれる、もらってくれるケースがあるので、売却を考えたらまずはお隣さんに聞いてみても良い。ご近所でなくても近隣の親戚、知人などもあり得るだろう。
また、地元で空き家を活用、まちづくりなどに取り組んでいる人達がいれば、その人たちに声をかけてみる手もある。その人たちが利用してくれる、あるいはその関係者が買う、もらうなどしてくれる可能性もあるからだ。
いずれの場合にも大事なことは欲をかかないこと。親が大金をかけて建てた家だとしても、その額に縛られ、現実の地域の価値と乖離した額で売ろうとしても売れるものではない。
国の統計は今後も空き家が増えることを明示しており、一方で人は減る。それを考えるとこの先、空き家が売りやすくなる、高値がつく事態は特定の地域以外ではあまり考えられない。もし、売るつもりなら家が劣化する前に手を打ちたいところだ。
ライター : 中川寛子(なかがわ・ひろこ)